VNCTST games 開発日誌

ゲーム開発日誌

電ファミニコゲーマー企画記事分析 #13 出渕裕×副島成記回

電ファミニコゲーマー企画記事分析のルールに従って、 http://news.denfaminicogamer.jp/interview/180514 を分析するエントリ。

またもや長い間サボっていたが、またもや重要な内容を多く含む記事が出たので再開。

まとめ

キャラ等のデザインについて

  • キャラ絵は大雑把には記号で構成されている

    • 記号とは、色とか髪型とか服とかアクセサリとか装備品とか
      • 「特に、色での印象付けが大事」との事
    • どの記号を採用するかはセンスによる
    • 記号を外すとキャラ認識がとても困難になるので、現実的でなくても敢えて記号を外させない事もある(帽子をかぶったまま風呂に入る等)
  • 記号の選択について

    • 記号とは、ある特定のグループに『共通して付いている意匠』の事でもある
    • これを認識できれば、「このロボットは陸戦用だから戦車に似た記号を入れてみる」みたいな事ができる
    • つまり、リアリズムの感じられる「○○っぽさ」が出る
  • 「塗りつぶしてもシルエットが同じにならない」ようにデザインする

  • 本来の構造を維持したまま、なんとかしてシンプルにする(「嘘をつく」)。しかし「嘘はつく」のだけれど、「パッと見た感じ、動けるよね、着られるよね」という部分は維持する。

  • 「さわってみたい」と思うような質感が重要

コンセプトアートについて

  • 「絵をベタにしてシルエットにしても、一つのアイコンとして成り立つ」のがベター
  • 色によって注視点、コントラストを制御する
  • 「企画はビジュアルフラッグがないと先に進まない」

創作活動について

  • 「面白いと思ったこと以外はやらないようにしよう」「逆に言うと、来た仕事の中で面白いところを見つけて、面白がってやれればいい」
  • 「自分が影響を受けて絵を描き始めた時の作品を、今もう一度味わいたいがために、自分で作る」のが創作のモチベーションになっている、との事

引用パート

キャラデザインおよびキャラ以外のデザインについて

  • リアルに考えると、パーンがふだんから鎧を着て歩いていたりするのは、本当はあり得ませんよね。でもキャラクターのアイコンとしては必要だし、そういうのを運ぶ従者を描くわけにもいかないから、着っぱなしにせざるを得ないよねって。素のキャラクターを立たせるために、あえて兜も着けていない

  • 絵って結局は記号じゃないですか。特に皆がカッコイイとか思う顔なんてパターンが限られてる訳で。だから、キャラクターの個性みたいなものを残すには、色とか髪型で差別化する

  • 特に色での印象付けが大事

  • (主人公パーンの鎧の色について) 白だと最初から高級感が出すぎちゃって、成長するキャラとして立たせるのが難しい

  • パーンは若いし、物語の中で叩き上げてくというイメージが欲しかったので、あえて黄味がかったカッパーな感じに

  • 最初にロボットのデザインを始めた時に、「塗りつぶしてもシルエットが同じにならないように」と教わった

  • シルエットで全体を黒一色で塗りつぶしても形がわかるようにして、いろんな武器を持たせたり、とにかく以前に描いたものとは違ったものに

(ロードス島戦記の登場人物が着ている金属鎧のデザイン等について)

  • 西洋甲冑に関しては、ロボットの延長線上みたいなところもある

  • リアルに甲冑を再現するのは素材的にも構造的な動きやすさにも無理がでるんで、その辺はパーツを省略したりしてアレンジ

  • ヨーロッパだと、近代の服装にも中世の家紋や文様の意匠が残っているじゃないですか。鎧とかにワンポイントで家紋が入っていると、やっぱりカッコいい

  • アニメーションは人の手で描いて動かすのが前提になるので、描きづらいものは描いてはいけない。鎧の構造がわかるようにしつつ、でも嘘をつく。嘘をつかないと線が多すぎて、アニメーターに怒られちゃいますから。あとは、どうやって着るんだろうというのは最低限考えておく

  • 嘘はついてるんですけど、でもパッと見た感じ、動けるよね、着られるよねというところに落とし込んでいく感じ

(PROJECT Re FANTASYのイメージイラストについて)

  • ファンタジー物をやりますというわかりやすさのために、耳だけは変えてある

  • この企画のアイコンとして、非常に優れているなぁと思いますね。三角形の構図がすごくバランスが良くて

  • この絵をベタにしてシルエット処理しても、1つのアイコンになるというか、紋章みたいにも見えると思うんですよ。アイコンとして作られた時のレイアウトの取り方が非常に優れている

  • 赤い髪がポイントですよね。他がモノトーンで抑えられているところに、赤い髪をバンと置いてある。逆に地味な色の髪だとダメ

  • 他がモノトーン調だから、地味にするとリアルには見えるかもしれないけど、全体が沈んじゃう。それだけじゃなく、離れたところにまた赤でワンポイントを入れてるのがね、ここがまたけっこうポイントが高い

  • 企画にはビジュアルフラッグがないと、先に進まないですからね。期待感を増すという意味でも素晴らしい

(デザインの良さの判断基準について)

  • 色使いはけっこう気にしますね。原色バリバリの絵を描く人は、ちょっと苦手

  • 色気とか、触れてみたいと思えるかどうか

  • この鎧ってどういう質感なのか、触れてみたい

  • 正面はプレートアーマーだけど、肩のところは革とかゴムとか、そっちのほうの質感に見えるんですよ。でもゴムだとファンタジーとはちょっと変わってくるから、そういうものを天然ゴムで作る技術がある世界なのかな? と妄想したりするのが楽しい

(「メカの機能美的なリアリスティックに描く部分と、ヒロイックに描く部分とのバランス」について)

  • メカとして楽しめる部分、ケンプファーだとパンツァーファウストだとか、それだけだとデザインとしてのキャラクター性って、あんまり見えてこなくなると思うんです。でも出渕さんのデザインは、ちゃんとキャラクターに見える

  • ロボットを描く時でも自分が描くとどこか、量産された工業製品というよりはキャラクターの部分が入ってきちゃいますね

  • 無機的なものというよりは、見ている側がカッコイイであったりとか、親しみを持ったりとか、色気を感じてくれたりとか、そういう部分があってほしいのかもしれない

  • メカとしてのディテールが行き過ぎると、ゴテゴテして格好良くないというか、色気が微妙に薄れると思うんです。でも出渕さんの場合はパッと見のシルエットがカッコ良くて、よく見ていくとちゃんと機能美的な、バイクのエンジンみたいな見え方がする

  • 顔から入るというのがあるじゃないですか。仮面のデザインと似ているところがあるんですよね、ロボットは。それとやっぱり、甲冑を好きだというのがあって。甲冑って西洋も日本もそうですけど、けっこうキャラクター性が強いんですよ。兜なんて自己主張の産物が多いし

  • 自分の中では鎧と甲冑とロボットって、けっこうリンクしている部分があって。そういう部分がロボットをデザインする時に、キャラクター性につながっている

(「絵は記号」について)

  • ロボットって、最近は現実にも存在していますけど、そんなに普及しているものではないじゃないですか。そうすると、多くの人が実際にメカとして認識しているのは、バイクであったり車であったり飛行機であったり、ミリタリーが好きな人は戦車だったり戦艦だったり、そういうものですよね

  • そこには『共通して付いている意匠』がある

  • このロボットは陸戦用だから戦車に似た記号を入れてみると、共通の記号というか共通認識みたいなところで、見ている人が「これって陸戦用ぽいよね」と思ってくれる

  • そういう自分が知っているメカニズムのパーツの部分が、そのままじゃなくてもそれっぽい形で見えたりすると、そこにリアリズムを感じてくれる

  • 「○○っぽさ」

(世界観の構築について)

  • 特にロボットは言葉を話さないじゃないですか。ロボットがただそこにいて、それが動くことで、この世界はこういう世界なんだというのを、視聴者なり観客なりにビジュアルで伝える

  • キャラクターもそうで、衣装だとか髪型だとか、こういう種族がいるだとかってところで、見ている側にこういう世界なんだと感じてもらえる。それが魅力的であればあるほど、その作品の世界観をより強いものにしていくことができる

  • 文章で世界を語ることも大事だと思っているんですけど、ビジュアルで見ている側にいろんな連想をさせて、妄想を引き立てて、自分もこういうことをやってみたい、こういうものを見てみたいと思わせる力を持てるのが、デザイナーの特権

(種類の違うものが混ざっている違和感について)

  • 僕らは昔のアニメーション作品を見てきているから、そこに3DCGの質感を持ったメカが出てきたら「エッ!」と思っちゃうけど、これを初めて見た子どもたちはおそらく、普通のものとして受け止めるんだろうなと

  • アニメーション作品はもともとセル画と背景、つまりキャラクターの絵と背景の絵で構成されているんですけど、じつはその2つというのはぜんぜん違う絵なんですよね。キャラクターは完全に2次元で陰影もパキッとした塗り分けなんだけど、背景は絵画的な手法で立体的に描かれていたりするわけですよ。影のつけ方も背景はリアルに影が落ちてるんだけど、キャラのほうは記号的にアゴ影がついてたりとか。

  • じつはぜんぜん違うものなのに、僕らは「アニメーションってこういうものだ」と馴染んで普通に見ている

  • そこに3DCGが入ってきたら、守旧派の僕たちは違和感を覚えるかもしれないけど、じつはそもそも異物と異物の出会いでアニメーションが構成されていることを、見落としてはいけない

  • その背景とセル画の違いのおかげで逆に、キャラが立ってくれる効果もある

  • もしも背景と同じようなタッチだと背景に溶け込んじゃって、キャラがパッと入ってこなくなる。見るほうが情報を追いかけるのに疲れてしまう

ゲーム系デザインについて

  • 止め絵で見せていくような文化と、動かしてナンボみたいな文化との違い

  • 情報量が多い

  • ゲームの中ではポリゴンで動かすんですけど、ここ一番でキャラクターに演技をしてもらいたい時にはCGでは表現できないので、これまではアニメーションの会社にお願いしていた

  • 最近……というか、少し前からだと思うんですけど、情報量で埋め尽くすことのスゴさみたいなものがようやく落ち着いて、引き算のデザインを始めたところがある

  • 最近のゲームじゃなくて昔のゲームなんですけど、なんでこんなに各部のパーツを強調する絵になっているのかと思っていたんです。

  • 小さいドット絵になってもそのデザインを立てるように、デザインの段階で強調しておく必要があるのかなと。たとえば『ストII』の春麗のデザインなんて、イラストだと腕輪がやたら大きくて気になっていたら、それがドット絵になった時にはちょうどよくて

  • 最初の頃の制約が、アニメーション以上に大きかった

  • ただ一方で、これまでのゲームのビジュアルは“ゲームっぽいデザイン”という面白い文化を作ってしまった

  • デザインの為のデザインというか、荒唐無稽なビジュアルとか衣装なんですけど、今ではポップカルチャーにまで影響を与えている

その他、作品の制作について

(フィクションについて)

  • 「ファンタジーが好きじゃない」という知人がいて、なぜかと聞いたら「中世ヨーロッパは自分と関係がない」と言うんです

  • ファンタジー世界は要するに嘘の世界だから、どこまでいっても自分とは関係ないんですけどね(笑)。だから自分とは関係ない、ましてや日本でもないところの話で、なんで面白いと思えるんだと。まあ、そういう人もいる

(仕事としての創作活動について)

  • 面白いと思ったこと以外はやらないようにしよう

  • 逆に言うと、来た仕事の中で面白いところを見つけて、面白がってやれればいい

  • (もし仮に、面白くない仕事をすると) 達成感がないというか、ワクワクできないですね。結果自分でも納得できないことになってしまうというか。デザインというのは、世界観を作ることでもある

(エポックメイキングな作品が出てくる背景について)

  • それまでのロボット物は、ロボットが戦って街が壊れても、そこで人が死んでいる描写は一切なかったわけですよ。人が死ぬ描写であるとか、そこから出てくる怨嗟には、カメラを向けなかったんです。でも現実にロボットが現れたらどうなる? というのを突きつけたのが『ザンボット3』

  • ガンダム』のコロニー国家がある世界観というのも、発明

  • 敵が悪い宇宙人ではなく、同じ人間同士になった

  • エヴァンゲリオン』的な、という言い方がいいのかどうかわかりませんけど、そういうインナースペースに入っていくような作品が方法論としてありますよというのは、『エヴァ』がああいう形で結果を出して、1つの時代を切り拓いた上で可能になっているアプローチ

  • その意味で『エヴァ』はもしかしたら、最後のエポックメイキングかもしれない

  • たとえば『ガンダム』であれば、ロボット物ってこうだよねという既成概念が成立してきて、それがあふれ出すタイミングで『ガンダム』が出てきて、その既成概念を打ち崩した

  • RPGってこういうものだよね」とか、それが当たり前だと思っているものほど、そこから一段上に行った時の驚きは大きい

  • エポックメイキングってたぶん、作った本人たちも「エポックメイキングなものを作るぞ」と思って作ってはいないんですよ。今言われた情念だとか、何かに対するカウンター、怒りの感情であったり、「オレはこれをキチンと表現してみたい」という思いだったり、そういったものが結果として、エポックメイキングな作品に化けさせている